Rubyist Magazine 七周年

著者:笹田耕一、たなべすなお

はじめに

おかげさまで、Rubyist Magazine は 7 周年を迎えました。そこで、今年 1 年間、およびこれまでのるびまについてまとめ、今後について考えてみたいと思います。

なお、このシリーズは例年笹田が執筆してきましたが、今年は主にたなべが執筆しています。

今年一年を振り返って

今年一年を振り返ってみると、今年もコンスタントにリリースすることができました。RubyKaigi 2011 直前特集を含めると 5 回、リリースしています。

昨年の勢いを引継ぎ 5 回のリリースを維持できたのはよかったと思います。

RubyKaigi の追い風を受けて出された 31 号の後、やや停滞していた様子がリリースの間の開き方や 32 号の記事の数に見られます。今年はそこから桑田さん旋風が吹いたのが印象的です。32 号を記事執筆で引っ張ったのを皮切りに ruby-list:47955 での記事募集があり、 33 号、34 号、35 号ではそこで貯金した応募を記事の掲載へ結びつけてリリースしてきた様子が伺えます。勢いに触発されたのかわかりませんが、ひさしぶり (4 年半ぶり!) に笹田の YARV Maniacs が更新されたのもうれしいニュースでした。

また、今年は最後の RubyKaigi の年でした。来年は RubyKaigi という高揚感発生装置がなくなってしまうので、るびまへ記事を書こうと思う人が少なくなるのではないかと心配です。RubyKaigi が終わったと思ったらるびまも終わっていたと言われないよう、引き続きテーマを決めての記事募集もやっていきたいと考えています。

さて、7 年目の記事を見てみましょう。

今年も変わらず、巻頭言が続いています。当たり前のように毎号催促するのですが、高橋さんはそれが当然のことのように書き続けてくれています。ありがたい話です。今年の巻頭言は日本 Ruby の会の広報誌の側面を持ったものが二つ (32 号35 号)、2011 年 3 月 11 日の震災後初めての巻頭言となった 33 号の巻頭言など、読み応えのあるものが多かったですね。

FirstStepRubyは、RVM、Bundler や能楽堂など Rails も視野に入れた開発環境構築の情報を含めたほうがいいのかもしれないと思いつつ、手が出せていません。年に数回ほど話題には挙がる気がするのできっと需要はあるんでしょうね。良い案があったら教えてください。

インタビュー記事である Rubyist Hotlinks は、cuzic さん、小波さんと関西編が続き、関東の yugui さんへとつながりました。次回は松田明さんのようですが、またここから別の地方編が始まるという噂も出ています。

シリーズ物として、海外記事翻訳シリーズが始まりました。英語の記事が日本語で読めるという点はもちろんすばらしいのですが、翻訳する記事を選ぶ過程で良質な記事に絞られている点が実は一番うれしい点かもしれません。

シリーズには並んでいませんが、翻訳物としては Chad Fowler のインタビューを翻訳したものもありました。読み物として気軽に読むこともできる内容になっていますので、表紙の紹介での「難易度:ktkr」に惑わされて読んでいなかった方は今からでもぜひどうぞ。

笹田の YARV Maniacs が約 4 年半ぶりに掲載されました。Ruby の外を含めて考えても貴重な VM の Web 連載だと思うので、ぜひ皆で「次を気長に」お待ち下さい。

34 号ではもう一つシリーズ物が始まっていました。他言語からの訪問。第一回は上原さんによる Groovy の話でした。Groovy の後編、そしてその後にどんな言語が続いていくのか楽しみですね。

「他言語からの訪問」というシリーズ名を聞いて「Rubyist のための他言語探訪」を思い出した方もいるのではないでしょうか。るびまにはまつもとさんによる「Rubyist のための他言語探訪」という連載もあるのですが、2007 年の Whitespace が最後の回となっています。先日 CoffeeScript についてこんなやりとり (まつもとさんの CoffeeScript について記事を書いた、というtweet) もあったので、来年は最新作が読めたりするのではないかと期待しています。日経 Linux には書けなくてもるびまでなら許される内容だってきっとあるはず。まつもとさん、いかがでしょう?

Regional RubyKaigi レポートも順調に続いています。実はとくに決まったフォーマットもなく、それぞれの地域に自由に書いてもらっているはずなのですが、自然と Regional RubyKaigi レポートに共通した構成というのが生まれており、さらに回を重ねるごとに洗練されていっているのがわかります。

一方、順調ではない常設記事があったのにお気づきでしょうか? RubyNews は 32 号に載ったのを最後に 3 号続けての休載となっていました。担当する編集がつかなかったというだけだったのですが、とくに休載を惜しむ声も復活を待ち望む声も聞こえて来なかった点がやや気がかりです。労力の割りに需要がないのであれば、この機会に正式に閉じてしまい、他の記事の充実に編集の力を注ぐのもいいかもしれません (開き直り) 。

個別記事は次のとおりです。

個別記事も様々なテーマが並びました。Rails 一色に染まるわけではないところがるびまらしいところかもしれません。シリーズ物とあわせて今年を感じさせる魅力的な記事を届けられたのではないかと感じます。執筆者の方々、あらためてどうもありがとうございました。

好評だった前年に引き続き RubyKaigi2011 直前特集号が今年も掲載されました。締切があると週刊でも出せるというるびまの締切駆動力がうかがえます。昼間の仕事を抱えながら記事を書き続けてくれたレポート班の皆さんへあらためて御礼を言わせてください。ありがとうございました。

また、RubyKaigi2011 では「一般社団法人日本Rubyの会と関連プロジェクト報告(るびま,るりま) 」 として活動内容の報告を行いました。Rubyist Magazine 活動報告として資料があがっています。紹介した enumerable_lz のやりとりについては Enumerable#lazy として松江 Ruby 会議 03 でも発表されました。

7 年間で 35 号ということで、平均 5.00 回リリース/年(去年は 5.16 回リリース/年)。特別号やエイプリルフールを入れると 40 回リリースなので、5.71 回リリース/年。記事数は特別号を入れて 495 記事で、70.71 記事/年ということになります。

現状分析

記事数、リリース回数共に、回復を果たした前年並みとなりました。記事数は微増なので少し成長したと言ってもいいかもしれません。まずは一年かぎりの勢いとならず、元気なるびまを維持できたのはよかったです。

今年は記事を執筆してくれる人がいる状況に後押しをされ、リリースをしてきた印象があります。「記事があるから出さないと」というわけです。記事を執筆してくれる人がまだまだいることがありがたい一方、たとえば 35 号のように記事数が多いと編集部側の体制や進め方がついていけない様子も見られました。新しく編集者となってくれる方もちらほらいるので、人数だけの問題ではないのかもしれません。最初から担当記事があるなどきっかけがあって活躍しやすい人はいいのですが、やる気があって参加はしたもののどうしてよいかわからない人もいるのではないかという気もします。

現在のるびま編集の進め方への心配の声を聞いたりもするので、そのあたりの改善が来年以降のるびまの課題なのかもしれません (という話はたびたび出ている気がするので、そこを自分の役目として進める人がいないのが問題なのでしょうが) 。

今後

これを書くにあたって、過去のコメントを見返してみました。ここ二年くらいは比較的前向きなコメントが続いているのですが、リリースまでの過程だけに限ると実情は大きく変わっていないようにも見えます。

るびまの価値の一つに続いていることがあると思うのですが、続けるための前提が「元気な編集者がいること」となってしまうとあまり今後も状況は変わらない気がします。ただ、アクティブな編集者がいなくても回る魔法のようなやり方がはたしてあるのかというと、ちょっと思いつきません。上手い工夫のある方はぜひご意見ください。続けるために変えていくことが必要なのだと思いますし、そのような相談を受けることもあるのですが、今のところ決定的な動きにはなっていないようです。

るびま自体の位置づけというのも考える必要があるのかもしれません。三年前になりますが、Rubyist Magazine 4周年に寄せてではこう書かれていました。

るびまの存在意義がなくなった

るびまじゃなくてもいいんじゃない? という話です。ポジティブな言い方をすれば、「るびまの役割を全うした」と言い換えることが出来るかもしれません。Ruby に関する情報は、以前と比べて大変豊富になりました。

たしかに Ruby の情報は多くなったようです。プログラミングに関する雑誌を見ていても、まつもとさんの連載がありますし、執筆する人は変わっても Ruby に関する連載が途切れない雑誌もあります。Web 媒体としても gihyo.jp で Ruby Freaks Lounge という充実した連載がされていました。記事を見ていても、まさにるびまじゃなくてもいいんじゃない? と思える内容と執筆陣なように思います。

では、日本 Ruby の会の会報誌のような位置づけへ絞るのがよいかというと、ちょっとそれは味気ない気がします。なにより、編集者が退屈して離れてしまうでしょう。続けることは大切ですが、続けるために守ろうとしても読んでいてつまらない雑誌になりそうです。創刊当初に Hotlinks が始まったように、なにか今の Ruby と Rubyist にあった新しい企画というのがあってもいいのかもしれません。

それでは、三年前には『「なるようになる」でいいんじゃないかと個人的には思っています』と書いていた笹田から届いている今年のコメント『今後も続いていってほしいなぁ、と思います』で今後の展望の結びにしたいと思います。

おわりに

るびまは 7 周年を迎えました。ありがたいことです。7 周年。人間ですと、小学校に入学している時期です。継続は力なり。今後とも、続けていけるといいですね。

というわけで、こんなるびまに、記事書いてみませんか? もしくは、編集者になって、記事を編集してみませんか?

著者について

笹田耕一

1979 年生まれ。2004 年東京農工大学大学院工学研究科博士前期課程情報コミュニケーション工学専攻卒業。2006 年同大学院工学教育部博士後期課程電子情報工学専攻退学。同年東京大学大学院情報理工学系研究科特任助手、2007年同助教、2008年同講師 (現職)。オペレーティングシステムやシステムソフトウェア、並列処理システム、言語処理系、プログラミング言語に関する研究に興味を持つ。情報処理学会、ACM各会員。Rubyコミッタ。

なぜか、今アメリカに居ます。色々と終わらなくて修羅場ってます。なので、今年はほとんどたなべさんが書いてくれました! 素晴らしい。

たなべすなお

1979 年生まれ。日本 Ruby の会。るびま育ちの Rubyist 。Haskell 勉強中なのですが、Ruby いいなぁと思う機会が多くて未熟さが身に沁みます。