著者: 笹田耕一
おかげさまで、Rubyist Magazine、通称「るびま」は 2004 年 9 月発行の 0001 号 (創刊号) から一周年を迎えました。
本稿では Rubyist Magazine のこの一年を振り返り、現状を述べ、問題点を示し、今後の展望を示します。
先月 (2005 年 8 月) 一周年を迎えた日本 Ruby の会の目標のひとつとして、Ruby 関連ドキュメントの整備があります。その一環として、Rubyist Magazine の創刊が提案されました。
……ではなくて、単純な思い付きでした (http://www.fdiary.net/ml/ruby/msg/88)。オージス総研さんの「オブジェクトの広場」は、オブジェクト指向関連技術についての情報をほぼ毎月ウェブ上で公開されています。これを毎回見ていた筆者は、同じようなものが Ruby 関連の情報源として出来ないかな、と考えたわけです。
奇しくも、創刊を控えた 8 月の終わりに、筆者には松江へ行く用事がありました。そこでまつもとさんなどにインタビューをすれば、「オブジェクトの広場」のようにインタビュー記事が書ける、これを柱にすれば、ある程度見栄えのいいものが出来るのではないか、という算段がありました。また、このプロジェクトに賛同してくれる方々もいらっしゃったので、これはいけそうだ、ということになりました。
そのようにして、創刊号 (0001) がリリースされました。8/12 に「やってみない?」という案が出てから、大体一ヶ月だったのですね。創刊号のあの時が一番つらかった気がします。そういえば、Rubyist Magazine という名前を決めるのにも、結構紆余曲折がありましたね (MagazineRequest)。
創刊号では、記事の数が 9 個でした。当初、4 つの記事を出すことができれば合格だ、と思っていたため (今でも思っていますが)、これはほんとに多くの記事が集まったことになります。もう、これ以上の数の記事が集まることはないだろう、と思っていたのですが、今から思うとこの創刊号が一番記事の少ないものになりました。
Rubyist Magazine を創刊するにあたっては、多くの人にお世話になりました。
サーバはかずひこさんが運用している WikiFarm をお借りすることになりました。この WikiFarm は 現在は NaCl に置いてあります。るびまの URL、http://jp.rubyist.net/magazine/ は前田修吾さんに設定してもらいました。現在でもほぼ同様のシステム構成です。
創刊の準備ではすぎむしさんにプランニングの基礎を教えてもらい、進行をしてもらいました。現在でも最初に立ててもらった計画を基本としてるびまの編集は動いています。
インタビューのテープ起こしから編集などは、なかむらさんを中心にお願いしました。まつもとさんのインタビューは、創刊まで短期間しかなく、大変なご苦労をおかけしました。
だんさんにはデザインをお願いしました。とてもカッコいい Hiki の CSS を作ってくれました。
編集に参加してくれた方々は、「英数字のまわりには半角スペースを入れないと格好悪い」ということで半角スペースを入れるようにする、など筆者が仰天してしまうほど細かい原稿のチェックをしてくれました。このような細かい体裁を良くするための作業は、今でも編集の作業として行われています。
もちろん、ここにお名前を出していない方々にも大変お世話になりました / お世話になっております。
創刊当初は批判的な意見も多く、そもそも Rubyist Magazine はすぐに終わってしまうだろう、という予想が大半でした。が、とりあえず一年間続きました。また、お蔭様で今ではそれなりに好評を頂いているようです。
2 号以降も、編集 ML でいろいろと議論しながらやってきましたが、なんとかかんとか一年間続きました。そのころ、筆者の Rubyist への挨拶は「るびまに記事書きませんか」という感じで、とにかく色々な方に記事の執筆をお願いしました (今もかも……)。その甲斐あってか、毎号それなりの数の記事数をそろえる事ができました。また、るびまの知名度が上がるにつれて、「記事を書こう」と言ってくださる方も増えました。
また、2 号の発行時あたりに計画した「るびま年間計画」を、かなり忠実に守ることが出来ました。この年間計画は非公開にしています。もし、守れなかったときも、「守ることが出来ました」ということが出来るからです。……というのは冗談で、公開することによってプレッシャーを受けたくなかったからです。
インタビューも毎回行うことができました。インタビューのテープ起こし、および編集がるびまで一番つらいところですが、当初はなかむらさん、今では mput さんが中心となって行っています。
2005 年 4/1 のためのジョークウェブマガジン「魔法言語ルビま!」は、我々るびま編集部のメンバーが主になって作成しました。完全なお遊びでしたが、お蔭様でこちらも好評を博すことが出来ました。慣れない Python による Wiki、MoinMoin の操作方法がわからず、苦労した記憶があります。
Rubyist Magazine は創刊号から今回の 9 号まで、一年間で合計 116 個の記事を作成しました (編集後記など含む)。平均すると、毎号 12.9 記事もの記事を皆様にお届けしたことになります。
記事の内訳としては、連載記事の割合が多いです。1 回では書ききれないことが多いからでしょうか。連載のほうが、執筆者の確保が楽、という理由もあると思います。
本節では Rubyist Magazine の現状についてまとめます。
現在、Rubyist Magazine の発行はすべてボランティアベースで行っています。具体的には、執筆、編集、サーバ維持管理がすべて無報酬で行われています。
編集者、執筆者のコミュニケーションは主にインターネットを通じて行われています。具体的に利用するシステムは直接の電子メール、もしくは次項で述べるメーリングリスト、Wiki、IRC (Internet Relay Chat) です。
執筆は「こんな記事を書いてみた」「こんな記事を書いてみたい」というお申し出を頂いた方にお願いしています。または、「こんな記事を書いてみませんか」とこちらからお願いし、承諾頂いた方にもお願いしています。
基本的には Hiki (下記で述べる Wiki クローン) のフォーマットでお願いすることになっていますが、違うフォーマットで頂いても編集者が Hiki フォーマットに直して掲載します。
記事のライセンスについては執筆者が自由に決めることになっています。ただし、Rubyist Magazine への掲載許可はもちろん頂くことになります (まぁ、Rubyist Magazine への記事の寄稿なのですから、当然ですよね)。
連載をお願いした人には、連載が終わるまできちんと続くようにお願いしています。ただし、連載記事を載せるインターバルについてはとくに指定はありません。隔号でも、それ以上間隔を空けても問題ないです。
編集者は記事の依頼、進行確認、記事のチェックを行います。また、各号の表紙や RubyNews、RubyEventCheck なども執筆します。インタビューのテープ起こしなども行います。
記事のチェックは文章構造のチェック、技術的内容のチェック、体裁・誤字脱字のチェックなどになります。
各記事に一人ずつ、代表編集者をつけたいのですが、引き受け手が足りなくていくつかの記事を一人の編集者が受け持っているのが現状です。
編集者には、記事を精読してチェックする人も居れば、記事を通読して気になったところを報告する方もいらっしゃいます。筆者は興味のある記事 (および、担当記事) のみ精読し、あとは適当に通読して気になるところがないかチェックする、という方法を行っています。
全体的な進行は筆者が行っています。記事の進み具合、編集の進み具合のチェックと催促などを行っています。リリース日の決定なども行っていますが、紙面が必要で流通などの都合がある一般雑誌と比べ、制限は無いに等しいため、リリース日は柔軟に変更可能です。また、もし予定通り出せなくても「ごめんなさい」で済むところが気楽です。
一時期、Rubyist Magazine を英語に翻訳する、という話もあったのですが、現在は頓挫しているようです。
筆者としては、これ以上作業の負荷がかかるのは大変問題なので、積極的に行おうとは思っていませんが、これから取り組んでみたい、という方がいらっしゃいましたら歓迎します。
翻訳に際しては執筆者の方に許可を得ることにしています。
Rubyist Magazine の編集は、主にメーリングリスト (QuickML) での議論と Wiki (Hiki) と IRC で実際の編集作業を行っています。
システムについての機能、運用 (主に Hiki について) などの具体的な事柄については Software Design 2005年 10 月号のかずひこさんの記事「Wiki で作ろう Web 雑誌!―『るびま』作りの舞台裏」を参照してください。
メーリングリスト (ML) は編集をまとめるための編集者用 ML (RubiMa-editors) と、各記事執筆用に記事ごとの ML (現在 8 つ) があります。また、Wiki の更新部分があったとき、その差分を送る ML もあります (RubiMa-editors-diff)。
編集作業を進めるための ML である RubiMa-editors は先日トータルで 2000 通を越えました。subscribe しているメールアドレスは 40 アドレスほどです。この ML は、るびまのリリース前に流量が極端に増えます。主に、進行の確認、執筆者を兼任している編集者への記事執筆についての確認、編集作業の確認などです。
Wiki 更新差分を通知する RubiMa-editors-diff は 2 号準備の段階から導入されたのですが、6000 通を越えています。登録されているメールアドレスは 15 アドレスほどです。こちらも、リリース前に流量が増えます。
記事執筆用の ML は、執筆者、担当編集者以外にも広く意見を求めたい場合などに用意します。たとえば Win32OLE 活用法では執筆者の cuzic さん以外にも、アドバイザーとして arton さん、助田さん、志村さん、ほか編集者が参加する ML を設けて、cuzic さんが記事を執筆された後に ML 参加者でいろいろなチェックを行い、リリースということになっています。
Rubyist Magazine では、編集用 Wiki と本番用 Wiki に分けて編集しています。編集用 Wiki には認証がかかっており、編集者、執筆者しか閲覧、編集が出来ないようになっています。リリース時、編集 Wiki の内容を本番 Wiki にコピーして、閲覧可能にします。
本番用 Wiki では編集に認証がかかるようになっており、編集者しか修正できないようになっています。本番 Wiki は、明確な間違いが無い限り修正しない方針です。
アクティブな編集者の間では IRCNet にるびま編集用チャンネルを用意して、そこで編集作業を行っています。今見たら 15 人居ました。そこで、記事の企画を練ったり、細かな編集についての議論をしたり、雑談をしたりしています。
筆者なりに Rubyist Magazine が一年間続いた理由を考察してみたところ、次のような理由ではないかと考えます。
まず、アクティブな編集者の方々の能力やモチベーションが非常に高い、ということが挙げられます。これが、後に述べる理由を支えている要因と思われます。各個人の能力はともかく、このモチベーションがどこからくるかは筆者にもわかりません。Ruby に対する情熱でしょうか。それとも、このような「同人誌制作」的な活動が楽しい、ということでしょうか。
編集は毎回とても力を入れて誤字脱字のチェックを行っています。創刊前に筆者が考えていたのは、「なんとなくチェックしてオッケーそうなら出してしまう」くらいだったのですが、実際は記事執筆のための表記規則まで用意してあるほど力を入れています。この尽力により、毎号読みやすい記事をお届けできているのではないかと思っています。
また、細かい訂正ばかりでなく、技術的内容や記事中の表現についても編集部からチェックを入れています。これも、記事の質を向上させていると思われます。
このように、記事をよいものにしよう、という努力は、一歩間違えれば力尽きる原因となり、長続きすることを妨害するとも思われますが、実際には記事の質を向上することによって Rubyist Magazine 自体の質を向上し、自己満足に過ぎないものとの差別化が出来ていると思われます。このような努力により、Rubyist Magazine が自然とドキュメントが集まる入れ物と少しずつ認識されていると思いますし、これからもますますそのようにしていければと思っています。
締め切りがある、ということは一定の数、品質の記事を定期的に発表するためによい影響を与えていると思われます。「これについての解説はいつか書こう」と思っていると、なかなか書けないものですが、締め切りがあることでモチベーションが上がります。
Ruby 関係は話題が豊富なので、ネタにはあまり困りません。なので、ネタ選び、企画提案はけっこう簡単です。困るのは実際にそれについて記述できる執筆者の確保なのですが、それについては後述します。もともとドキュメントが少ないので、書くものに困ることがない、ということかもしれません。
Wiki であることは「手軽」にドキュメントをまとめるのにとても役に立っています。また、利用しているシステムが Hiki であり、Hiki のメンテナであるかずひこさんが編集に参加してくれていることで、Rubyist Magazine のために機能が足りないときには検討してもらえたり、問題が起きた時に対処してもらえたりします。Rubyist Magazine が Hiki の新バージョンの実験台になっているという側面もあります。
本節では Rubyist Magazine に関する問題点を考察します。
思いつきではじめ、勢いで一年間続けてきたようなものなので、いろいろなことが不確かなまま続けてきました。意思決定プロセスもなぁなぁのまま進めてきました。Rubyist Magazine の規模が大きくなると、この点が問題になります。
編集者の数は足りないのが現状です。今は一応すべての記事にチェックが入っている状態ですが、記事によってはソースコードの動作確認が (執筆者以外で) 出来ていないものもあったり、時にはミスを見落とすこともあります。
編集支援を計算機にさせるソフトウェアも用意しようとは思っているのですが、まだ準備できていません。
この問題については、「やってやろう」という人が現れないとどうにもならないので、たとえば一回のリリースで公開する記事数を制限する、インタビューを隔刊にする、などの対策を検討しています。
編集者ほどではないのですが、執筆者はどうしても足りません。「書いてほしい」というリクエストは結構頂きますし、私たちも「こういう企画をやってみたい」というネタは結構溜まっているのですが、なかなかちゃんとした文章をまとめてくれるという人材は少ないです。
もちろん Rubyist Magazine は無報酬ですので、たとえば十分に面白いネタでよい文章が書ける人は報酬の出る雑誌などに寄稿するということもあるかと思います。そのあたりとの共存についても今後の課題です。
現在、すべての活動はボランティアであり、必要な経費などもすべて編集者の負担になっています。たとえば、今回プレゼント企画をしてみたのはいいのですが、送料などはすべて提供者が負担する予定です。
何かしら、お金を集める仕組みを作って、協力してくれている方々に少しでも還元したり、企画のための資金にできればいいと思うのですが、「お金を集めること」と、「集めたお金を管理すること」についての方法と、それにかかるコストが不明なので現状では行っておりません。
こういうことに詳しい人がいればいいと思うのですが。
要するに人員不足ということなのですが、現在アクティブな編集者が一人でも抜けてしまうと継続が困難という現状があります。
たとえば筆者は博士後期課程 2 年生ですが、多分、再来年には卒業して就職します (したいなぁ)。そうすると、今までどおり筆者がアクティブに Rubyist Magazine を編集し続けるのは難しくなります。筆者は一応旗振り役 (進行その他) になっているため、他の人にその役を回さなければならないのですが、なかなか押し付ける、もといお願いできる方が居ない (好き好んでこんなことをやる人はなかなか居ない) というのが現状です (できれば、博士論文を書く頃には交代しているといいんですが)。
会社勤めの社会人の方にこの役目をお任せするのは負荷が大きいので、できれば学生の方にお願いしたいところではあります。
居なくなったら居なくなったで、なんとかなるのかもしれないのですが、なんとかならないかもしれません。
「Ruby にはドキュメントが足りない」という、指摘されている Ruby についての大きな問題点のひとつのために、Rubyist Magazine はそれなりの成果を挙げてきていると思います。また、その成果をより広がるために今後も続けていければと思います。
そのためには Rubyist Magazine を続けることが何より大切だと筆者は考えているため、上記問題点についても「続けること」を最優先に、これからも挑戦していきたいと思っています。
本稿では Rubyist Magazine 一周年にあたり、これまでのことと現状と問題点、および今後について簡単にまとめてみました。
まぁいろいろ書きましたが Rubyist Magazine は筆者にとって趣味なので、これからも楽しくやっていければいいなと思っています。もし、一緒にやってくれる、という方がいらっしゃいましたらるびま編集部までぜひご連絡ください。
今後とも、Rubyist Magazine をよろしくお願いします。
笹田耕一。1979 年生まれ。2004 年東京農工大学工学研究科情報コミュニケーション工学専攻卒業。同年、同大学大学院工学教育部電子情報工学専攻知能・情報工学専修博士後期課程入学。現在同博士後期課程 2 年。オペレーティングシステムやシステムソフトウェア、並列処理システム、言語処理系、プログラミング言語に関する研究に興味を持つ。