0020 号 巻頭言

日本Rubyの理事会について

Rubyist Magazine 第 20 号をお届けする。

今号は、kikaineko さんこと伊尾木さんに登場していただいた 「Rubyist Hotlinks 【第 19 回】 伊尾木将之さん」、 前回に引き続き正規表現について詳解する 「標準添付ライブラリ紹介 【第 13 回】 正規表現 (2)」、 そして最近発売された Ruby 関連書籍の中から、 『Ruby クックブック』と『Ruby ではじめるゲームプログラミング』をプレゼントする 「0020 号 読者プレゼント」、 そして「0020-RubyNews」に「0020-RubyEventCheck」 と、いくつかの連載のお休みもあり、若干少なめな構成となっている。


2007 年 7 月は、Ruby アソシエーション、Ruby ビジネスコモンズの設立など、 Ruby に関連した団体の大きな動きがあった。今後の Ruby の方向性を 考える上で、重要な月だったと言えるだろう。

これに先立つ 2007 年 7 月 8 日、日本 Ruby の会の理事が集まり、 「日本 Ruby の理事会」が行われた (残念ながら現在日本にいないかずひこさんは Skype での参加だった)。 前回集まったのは 2004 年だったため、今回は 3 年振りの開催である。

理事会を行うきっかけとなったのは、上記のような他関連団体の設立とは無縁ではない。Ruby の名を冠する団体が他にない場合の Ruby の会は、とにかく Rubyに関係することをやればよかった、といっても過言ではない。なぜなら、他にいないのだから。しかしながら、他にもさまざまな団体があるとなれば、話は違ってくる。複数の団体で同じことをしても仕方がないし、端的に言って紛らわしい。かといって、活動内容を奪い合っても意味がない。

加えて、他団体にしても Ruby の会が何をしているのか、何をしたいのかが判らないと活動しづらいと思われる。 曲がりなりにも Ruby の会はそれなりの期間にわたって活動を行ってきており、後からそれと直接バッティングするような団体を立ち上げることは、組織のブランディングを考えてもプラスにはなりがたい。しかし、Ruby の会自体が何を考え、どのような活動を行いたいかがわからないと、そのようなことも起きてしまう可能性がある。 幸いにして Ruby アソシエーションの方にも Ruby ビジネスコモンズの方にも、設立前にお会いすることができたのだが、どちらも Ruby の会に気を使っていただいているようだった。これはこれでありがたいのだが、そもそも気遣いが必要になるのは、Ruby の会自身の意思決定や広報活動に至らぬ点があったためと言えなくもない。

以上のような背景もあり、Ruby の会の今後の方向性を考えるべく、理事を集めて議論を行うこととなった。 もっとも、今回は具体的な活動はあまり触れず、大枠として日本 Ruby の会がどのような活動を行うべきか、認識のすりあわせを行う場となった。

理事会で話した内容については以下にまとめておく。

まず、現在までの Ruby の会の活動のうち、その意義が認められるものとしては、大きく以下の 3 点が挙げられた。

  • イベント参加、RubyKaigi 開催
  • るびまの刊行
  • (個人が Ruby に関する活動をする際の) 肩書き、所属として機能していること

さらに、参加者数としてそれなりの人数になっていること、サイトや ML が勉強会の開催や地域コミュニティの活動募集やアナウンスの場として機能していることも挙げられた。また、現在までに大きなトラブルもなく、無事に運営できた点も評価の対象とされた (その他プライベートなネタもあったがそれはここでは措いておく)。

一方で、様々な問題を抱えている (抱え続けている) こともある。それらについては、問題点の指摘を行ったが、「すごい会議」風の「どうすれば〜」という解決指向の文言に変えてみた。

活動内容関連

  • どうすれば現状どんな問題点があるのかが共有できるだろうか?
  • どうすれば新しい人が参加するきっかけが増えるだろうか?
  • どうすれば動いている人が固定化されなくなるだろうか?
  • どうすればユーザや開発者の「困っていること」を直接集約する場ができるだろうか?
  • どうすれば Ruby の会 ML へのメールに対して反応が大きくなるだろうか?
  • どうすれば課題をその解決のアクションにつなげる機会ができるだろうか?
  • どうすればプロジェクトを起こしやすくなるだろうか?
  • どうすればもっと開発者を支援できるだろうか?
  • どうすれば web サイトの更新が進むだろうか?
  • どうすれば Rubyist SNS ができるだろうか?

理事会・運営関連

  • どうすれば理事会が頻繁に開催できるだろうか?
  • どうすれば理事や代表が忙しくなくなるだろうか?
  • どうすれば理事や代表が忙しくても会が円滑に動けるだろうか?
  • どうすれば意思決定がはっきりするだろうか?
  • どうすれば日本 Ruby の会の ML に連絡することが増えるだろうか?

外部との関わり

  • どうすれば外部から日本 Ruby の会に求められてるものがよくわかるだろうか?
  • どうすればよそから絡まれたときに返答に困らなくなるだろうか?

金銭関連

  • どうすれば税金関連のグレーな部分をクリアにできるだろうか?
  • どうすれば大金を扱うことに対する不安感がなくなるだろうか?
  • どうすればお金の扱い方、使用用途 (予算) がクリアになるだろうか?

対初心者関連

  • どうすれば Ruby のことで気軽に相談できる場が作れるだろうか?
  • どうすれば Ruby 使いたての人にとっていい場所が提供できるだろうか?
  • どうすれば Ruby 使いたての人にとって敷居が低くなるだろうか?

イベント関連

  • どうすれば RubyKaigi で特定の人に負担が大きくなくなるだろうか?
  • どうすれば RubyKaigi 残処理の進捗管理が進むだろうか?
  • どうすれば OSC や LL* への参加について積極的に動けるだろうか?

これらはあまり新しいものではなく、以前から指摘され続けてきたところである。にも関わらず、未だに問題点として挙げられてしまう、ということは、根本的な対応を行ってこれなかったということでもある。

さらに、Ruby の会の短期的な活動目標として、以下の目標が提案された。

  • 来年の春頃に RubyKaigi2008 を開催し、そこで Ruby 1.9 の安全宣言を出す

これは、Ruby の会の活動の方向性を打ち出すには、「Ruby 1.9」にフォーカスするべきである、という判断が元になっている。Ruby 1.9 は、例えば Ruby に注目し始めた企業が今手を出すことはあまりないだろう (それよりも既存の 1.8 へのコミットの方が可能性が高いし、また期待したいところでもある) と思われる。そこで、Ruby の会の存在意義があるのではないか。その活動として、RubyKaigi の開催と、それに向けた 1.9 の安定化は、現実的な目標と考えられる。

もちろん、Ruby 1.9 の活動のみに特化するわけでもないし、また Ruby 1.9 は Ruby の会だけで扱いきれるわけでもない。さまざまな協力が必要となる。その一翼を担うことを目的とすればよい。

Ruby が大きくなり、影響力が広がるにつれ、Ruby の会、その活動としてのるびまも注目されてしまうだろう。しかしながら、るびまにしても、内部から見たそれは激しくスケジュールからずれたり (それも一番足を引っ張っているのが編集長の名を持つ自分だったり)、連載も満足に掲載できなかったりと、散々な具合であるのは否めない。

しかし、Ruby アソシエーションや Ruby ビジネスコモンズの設立は、Ruby の会の活動改善のための好機ともなりうる。Ruby の会だけでは解決の糸口すらつかめなかった問題も、他団体との連携が進めば解決できるかもしれない。もっとも、そのためには Ruby の会としても、今まで以上の活動を行う必要があるかもしれないが。いずれにしても、内外の方々の協力を賜りながら、今後の Ruby の発展に向けて尽力していきたい。そう考えている。

(るびま編集長 高橋征義)